立ち上がれない。北京へつながる2連覇への挑戦は、5位に沈んだ。サブ道場に座り込んだ井上は、すっぽりとタオルをかぶった。繰り返される自責と、流れ落ちる涙。10分間、ピクリとも動かずに現実と向かい合った。失意の息子に、父・明さんは言葉を選びながら、重大な決意をほのめかした。
「(五輪へは)一段と厳しい条件になったという表現に、留めさせてください。あきらめだけは持つなと言いたい。全日本選手権を最後に、という思いを(もう一度)持ってほしい」
今回の欧州遠征でたった一度の出場機会で、3位決定戦でも勝てなかった。代表が決まる4月29日の全日本選手権まで希望の灯火を消すつもりはないが、もし代表の座を逃したら…。柔道の師匠でもある父の「最後」という言葉の重みが、ズシリと響く。4月の全日本選抜体重別、全日本選手権は、まさに引退覚悟の背水の陣となる。
「北京に向けて、赤信号になった。自分の柔道を出せていない。(気持ちは燃えても)体が動いてくれなかった。大きいものを感じています」
康生は、消え入るような声を絞り出した。準決勝では昨年の世界選手権で返し技を食ったテディ・リネール(フランス)に、延長で効果を奪われ、雪辱はならず。3位決定戦でも一本負け。積極的に足技を使ったが、技を掛けきれない。自らが感じた体と気持ちの違和感だった。
昨年のフランス国際には優勝したが、その後は5大会連続の敗戦。ライバル棟田康幸(警視庁)、石井慧(国士大)にも見劣りする現状に、昨年の世界選手権後、斉藤仁監督は北京五輪に向けて「100キロ級に戻るのも勇気ある決断だ」と打診したが、アテネ五輪後に自身が選択した道を、曲げなかった。
「周りで支えてくれたり、励ましてくれたけど、それに応えられない自分が悔しい…」
1月に入籍し、スタンドから祈るように見つめた夫人の亜希さん(25)の支えを思うと、再び嗚咽(おえつ)が漏れた。入籍前、夫人に告げた「今年1年だけは、戦う年にさせてくれ」という決意。柔道人生をかけた不退転の2カ月半で、完全燃焼する。
と伝えられた。
今の井上選手は、あまりにも周囲に目が行っているようで何か中途半端。
特に技が中途半端だと思います。準決勝での技も中途半端でかけ、返されるという形での敗戦。
以前の井上選手なら技をかける崩しで相手が投げれたが、今は、技が先になっており返されることが多いように思える。
ここまでくれば開き直って、少年時代の柔道のように対戦する相手になにがなんでも勝つ!!という柔道の勝負にこだわってほしい。
そして、柔道をもっと楽しんでください。
日本のエースはあなたです。
がんばってください。